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宇都宮地方裁判所 昭和35年(行モ)1号 決定 1960年4月08日

申立人 国華タクシー株式会社

被申立人 栃木県地方労働委員会

主文

本件申立はこれを却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

事実

申立人は「被申立人が申立人に対して昭和三五年三月八日附栃地労委昭和三四年(不)第一号及び第二号事件についてなした別紙記載の命令主文中第一項及び第四項は本案判決確定迄その執行を停止する」との裁判を求めた。

申立人の右申立の要旨は、

一、申立人は昭和三五年三月二三日、被申立人が申立人に対してなした前記命令(以下本件救済命令と称する)を不服として御庁に右命令の取消訴訟を提起し、現に御庁(行)第一号行政処分行為取消請求事件として係属中である。

二、ところで申立人会社には、現在従業員四名(本件救済命令の申立人)で組織する国華タクシー労働組合(同じく本件救済命令の申立人)と、従業員一七名で組織する国華タクシー株式会社労働組合とがあり、全従業員中自動車運転に従事する者は一八名であるが、担当車は一六台しか存せず、担当車の変更指定については昭和三三年一二月二一日附国華タクシー労働組合と協定した協定事項を遵守し、従業員全員と協議して公平に決定している。

三、然るに今仮りに本件救済命令に従つて担当車を変更するとせば、現に担当している国華タクシー株式会社労働組合員の担当車を取り上げて本件救済命令申立人等に担当させるほかなく、かくては同組合において協議がまとまらず、延いては大混乱を起すことが必至であり、申立人の営業は停止のやむなきに到ることが予想される。よつて申立人は新車又は中古車を購入増車して、然るうえ全従業員の協議にもとずいて公平なる担当車の決定をしたいが、今直ちに命令を執行されるにおいては、右のとおり申立人の営業は停止となり、会社の存否に影響するので、こゝに行政事件訴訟特例法第一〇条第二項により本案判決確定まで本件救済命令第一項及び第四項の執行の停止を求める。

というにある。

理由

(一)、よつて判断するに、労働委員会が労働組合法第二七条第四項により不当労働行為を認定し使用者に対し救済命令を発した場合には、これにより使用者に対しその命令の内容に従つて一定の作為又は不作為をなすべき公法上の義務を課するのであるが、その救済命令の内容が代執行に適するものである場合(例えば本件命令第四項)には行政代執行法第二条所定の要件を満す限り代執行の方法によりその内容を強制的に実行することができるし、その命令の内容が代執行に適しないものであつても、裁判所が労働委員会の申立にもとずき労働組合法第二七条第七項により緊急命令を発するときは、これに従わない使用者は同法第三二条により過料の制裁を受け救済命令の履行を間接的に強制される等の法律上の効果が発生するのであるから、右のような代執行又は緊急命令が発せられる以前においても、かゝる法律上の効果の発生を阻止するため労働委員会の救済命令そのものの効力を停止する利益があるというべく、かゝる救済命令の取消を求める本訴を提起した使用者は、行政事件訴訟特例法第一〇条第二項の要件が存する限り右救済命令の執行停止を求めることができるものといわなければならない。

(二)、そこで本件について行政事件訴訟特例法第一〇条第二項の執行停止の要件が存するか否かを判断する。

本件記録中の栃地労委昭和三四年(不)第一号第二号事件の命令書によると、同命令第一項は、申立人会社に対し、その従業員にして国華タクシー労働組合員たる亀井喜市、石川豊治、星野泰平の担当車について、同会社所有の一九五七年型トヨペツトクラウン及び一九五八年型トヨペツトコロナの中から、勤続年数を基準として、他の従業員と公平に担当車を変更指定すべきことを命じているのであつて、この命令第一項は申立人提出の疏甲第三号証の担当車一覧表と照合すれば一応正当と認められるし、右命令に従い公平な担当車の変更指定をすることは、国華タクシー労働組合と申立人との協定(疏甲第一号証)の趣旨にも添うものであり、右命令を実行することにより従業員間に混乱を生ずるというだけでは未だ右救済命令を停止する理由とはなし難い。のみならず申立人が右命令と疏甲第一号証の協定の趣旨に従い、誠意と最善の方法をもつて担当車の指定変更をするならば、必ずしも従業員間に混乱を生ずるものとは思われないし、又それによつて必然的に申立人が営業停止のやむなきに立到るような事態が発生するとは到底考えられない。次に、本件救済命令第四項は申立人会社に対し、国華タクシー労働組合の運営に介入したり、同組合員に対して不利益な配車及び担当車の指定を行わない旨の誓約文の掲示を命じているにとゞまるから、これによつて申立人主張の如き損害が発生するとは認め難く、以上の認定に反する疏甲第四号証は措信しない。従つて本件救済命令第一項及び第四項の執行により、行政事件訴訟特例法第一〇条第二項にいわゆる「償うことのできない損害」を生ずる虞れがあるということはできない。

(三)、よつて本件申立は失当であるからこれを却下し、申立費用について行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 石沢三千雄 吉江清景 竹田稔)

(別紙)

栃地労委昭和三四年(不)第一号第二号事件命令

主文

一、被申立人は、申立人亀井喜市、同石川豊治および同星野泰平の担当車について、被申立人所有の一九五七年型トヨペツトクラウンおよび一九五八年型トヨペツトコロナの中から、勤続年数を基準として、他の従業員と公平に、担当車を変更指定しなければならない。

二、被申立人は、指定担当車なき申立人水沼勘一郎に対し、同人の配車について、他の従業員と差別取扱いをしてはならない。

三、被申立人は、今後申立組合員に対し、組合脱退を勧奨したり、組合員に対する配車、担当車の指定その他の労働条件について、他の従業員と差別取扱いをしてはならない。

四、被申立人は、その費用をもつて、縦一メートル、横一・五メートルの木板に、左記事項を墨書し、これを事務室入口の従業員の見易い場所に掲示し、引き続き一ケ月間責任をもつてこれを存置しなければならない。

誓約文

国華タクシー株式会社は、国華タクシー労働組合の運営に介入したり、組合員に対して不利益な配車および担当車の指定を行つた非を認め、今後は一切この種の行為を繰り返さないことを誓約する。

右栃木県地方労働委員会の命令により表明する。

昭和  年  月  日

国華タクシー株式会社

代表取締役 大淵源一郎

国華タクシー労働組合

組合長 亀井喜市殿

五、被申立人は、第一項および第四項について、本命令書交付の日から七日以内にこれを履行するとともに、その履行状況について遅滞なく文書をもつて、当委員会に報告しなければならない。

六、申立人柳岡睦の申立は棄却する。

以上

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